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Flight of the Doves 小さな冒険者

イギリス映画 (1971)

1968年に刊行された同名原作の映画化。原作との最大の違いは、『オリバー!』のアートフル・ドジャー役のジャック・ワイルドを主役に持ってきたことから、フェイギン役のロン・ムーディを準主役に仕立て、原作には全く登場しないホーク・ダヴという最大の悪役を創造したこと〔2人とも、アカデミー賞の主演男優賞と助演男優賞にノミネートされた〕。原作では、悪役は継父のクロムウェルただ一人。映画では、フィンとダーヴァルの遺産問題を、ホーク・ダヴが弁護士に扮してクロムウェルに知らせるのだが、原作では本物の弁護士が知らせに行く。映画では、クロムウェルはアイルランドにいる祖母が2人を誘拐したと声を張り上げるが、原作では、フィンがダーヴァルを連れ出したことになっていて、クロムウェルは悪ガキ・フィンを強調する。そのフィンだが、映画では、クロムウェルに少年院に入れるぞと脅されるだけだが、原作では、あらゆる雑用をさせられ、やり方が不十分だとビンタを喰らうか、石炭貯蔵庫に閉じ込められる。2人がアイルランドの伯母の住所を知らないことは同じだが、原作では、①再婚した妻(フィンたちの母)が死んだ時、手紙をすべて燃やしてしまった、②フィンは6~7歳の時に一度だけ祖母の家を訪れた時のことを書いた日記を持っている、という付加情報がある。ただ、どのみち、2人にはほとんど情報がなかったことは同じ。映画の最後にフィンが、ダーヴァルには 「愛してくれる誰かが必要」だと判事に述べるが、この “愛” は原作でもフィンがダーヴァルを連れ出す動機になっている。原作では、アイルランドで様々な人と会うが、映画では、それを “様々に変装したホーク・ダヴ” に変えている。現在の視点、『オリバー!』効果がゼロになった状態で見ると、ホーク・ダヴを演じるロン・ムーディの “演技” が、もともと演劇出身だったため、“臭い芝居” になってしまっている。原作に忠実にした方が良かったような気も。なお、右の写真は、1968年出版の初版に載せられたCharles Keepingの挿絵。

映画は、13歳のフィンと7歳のダーヴァルの兄妹がとても仲の良いことを短いシーンで見せた後、残酷な継父のクロムウェルが、2人に暴力を伴わない陰湿な虐めをする短いシーンへとつなげ、2人が家出してアイルランドの祖母に助けを求めに行く動機を分かり易く描く。映画は、引き続き、アイルランドの法廷の挿話で、2人に、母方の祖父からの信託財産の付与と、万一 2人がいなくなった時の、2人の伯父への財産付与という、“ホーク・ダヴが2人をつけ狙う” 動機についても簡単に示す。そして、そのホーク・ダヴは、あまりの下手さで失業し、2人を殺すことで人生を変えようと考え、弁護士に変装してクロムウェルの家に行き、2人に会おうとする。しかし、2人は間一髪で逃げ、ホーク・ダヴは信託財産のことをクロムウェルに打ち明け、警察に行き、“アイルランドの祖母による孫の誘拐事件” として訴えるよう示唆する。そして、場面はアイルランドに。2人は、大家族に紛れ込んでアイルランド行きの船に乗るが、クロムウェルは飛行機でダブリンに直行、アイルランドの警部と会い、地元TVで懸賞金をPRする。ホーク・ダヴは、“イギリスから休暇でアイルランドに来た主任警部” に成りすまし、強引に地元の捜索チームに入り込む。フィンとダーヴァルは歩いて祖母の暮らす県に向かうが、7歳の少女には無理な話で、途中、馬車に拾ってもらう。しかし、この男が懸賞金目当てで、目的地に着くとすぐに警察に通報。フィンとダーヴァルもそれに気付いて巡査の自転車を拝借して逃げ出す。その後は、夜を過ごそうと入った墓地で、密造酒のクループが、祖母の家までの中間点にある町までトラックで酒を運ぶことを知り、こっそり便乗。しかし、途中で乗り合わせた巡査から、赤毛の兄と金髪の妹が捜索されていると知り、トラックの中で金髪の兄と黒髪の弟に変身する。トラックが着いた町で、ホーク・ダヴに変装を見破られ、それでも何とか逃げると、今度はロマニーに匿われ、赤毛の姉と黒髪の弟に変身する。その後、ホーク・ダヴが新たに扮した “女性の新聞記者” の車に乗せられ、断崖絶壁に面した城址で殺されそうになるが、逆にホーク・ダヴが転落。その後、あまりも簡単に祖母の家に辿り着き、感激の再会。その後も、2人を取り戻そうする警察とクロムウェル、2人を殺そうと “近隣の農民” に化けたホーク・ダヴを交え、危機が続く…

ジャック・ワイルド(Jack Wild)は 1952年9月30日生まれ(2006年3月1日死亡)。映画の撮影は、1970年の7月20日から9月にかけてなので、撮影時はこのサイトが対象とする17歳をギリギリでセーフ。そんな17歳のジャックが、13歳のフィンを演じるというのは、数値だけをみれば不可能に思えるが、彼が一躍スターダムに上り詰めた『Oliver! (オリバー!)』の撮影時が14歳、存在感をアピールした『Melody (小さな恋のメロディ)』の撮影時が、この映画と同じ17歳なので、年の割に子供っぽく見えるのがジャック・ワイルドの特徴だと納得できる。下の写真は、左から、『オリバー!』、『小さな恋のメロディ』、そして、この映画の1年弱後に撮影された『The Pied Piper (ハメルンの笛吹き)』。

あらすじ

13歳のフィンが学校からドールハウスを持ってこっそり家に入って来ると、キッチンで夕食の準備をしている妹の7歳のダーヴァルにそっと近づいていき、いきなり継父の真似をして咳払いをする。妹は、びっくりして振り向き、「お兄ちゃん、おどかさないでよ。トビーおじさんかとドキッとしたじゃない。夕食の準備 まだ終わってないから」と、不満を漏らす。「僕がやるよ、お前は牛の乳を搾って来い」。ここは、リヴァプールで牛などいないので、妹は 「牛って?」と訊く。フィンは、「この牛だ」と言って、木を削って作った乳牛の人形を渡す。「これ、誰の牛?」。「お祖母ちゃんの」。そう言って、今度は、祖母の人形を渡す。「お祖母ちゃんだ。アイルランドにおウチがあるのよね」。「覚えてるのか?」(1枚目の写真)。「変わった屋根があったわ」。「こんな風にか?」。そう言うと、フィンは、取って置きのドールハウスを見せる(2枚目の写真)。「触ってもいい?」。「お前のだ。木工教室で作ったんだ。お祖母ちゃんが昔送ってくれた絵葉書を真似たのさ」。そして、絵葉書も見せる。妹は、全部を手にして隣の居間の絨毯の上に置くと、寝転がってドールハウスの玄関ドアに触ってみる。「中を見てみろ」。妹がドアを押すと、ちゃんと動いて中が見える。「家具だわ」(3枚目の写真)。「家を回転させてみろ」。ドールハウスなので、裏側は家の中が見えるようになっていて、ベッド、棚、テーブル、イス3脚が置いてある。妹は、絵葉書を見ながら、「アイルランドに住めたら、きっと素敵ね」という。
  
  
  

その途端、黒い革靴がドールハウスを踏み潰す(1枚目の写真、矢印は屋根)。「アイルランド、アイルランドとしゃあしかぞ〔博多弁を再度使用:うるさいぞ〕。俺ん夕食はどげんした?」。フィン:「いつもより、帰りが早いじゃないか」。「いつ帰ろうが俺ん勝手や。ダーヴァル、ダーヴァル、お前のうち物〔私物〕ば足元に置きなしゃんな。きちんとしたとが好いとー。ゴミば暖炉ん中に入れれ」。フィン:「ゴミじゃない。お祖母ちゃんの家の模型だ」。「暖炉ん中や、ダーヴァル」。ダーヴァルは、緊張すると何も言えなくなる。「ダーヴァル、お前に話しとーったい。返事しぇんか!」。フィン:「緊張すると話せない。知ってるだろ」。「なら、何もゆわんでよか。しゃっしゃと暖炉に入れれ」。フィン:「僕がやる」。「ダーヴァルにしきる〔できる〕。お前は飯ん支度〔したく〕や」。ダーヴァルは立ち上がると、兄からもらったものを暖炉の火にくべる(2枚目の写真、矢印)。まだ、絵葉書と祖母の人形が残っていたので、「全部どけれ。俺はきれい好いとっちゃん」。ダーヴァルは、人形を火にいれ、絵葉書は手に持ったままイスに座り、泣き始める。「やめんか、でなかと、ベルトで叩くぞ!」。ダーヴァルは、ますます泣き出したので、手に持った新聞で引っ叩こうとする。フィンは、火かき棒を継父に向け、「構うな!」と妹を守ろうとする(3枚目の写真、矢印)。継父は、ダーヴァルに向かって、「ダーヴァル、どう思う? お前んお兄ちゃんば少年院に放り込んでやろうか?」と言い、ダーヴァルは恐ろしくなって泣くのを止める。これほど悪質な継父も珍しい。
  
  
  

アイルランド人に住んでいるメアリー・オフラハティは、“お祖母ちゃん” にしてはまだ若い〔現在の日本の雇用政策では55歳以上が高年齢者。メアリー役の名女優ドロシー・マクガイアは撮影時54歳なので中年齢者に該当〕。このメアリーが、リフィー判事〔名コメディアンのスタンリー・ホロウェイ〕の法廷に乱入して行き、「次の事件なんか放っておいて、ブレンダン。重要な手紙があるの」と、大声で叫ぶ(1枚目の写真、矢印がメアリー)。ブレンダン・リフィー判事は、「法廷の後で話そう、メアリー・オフラハティ」と制するが、「密猟者や酔っ払いの嘘を延々と待っていなくちゃいけないの?」と文句を言う。被告が「どうぞお先に」と譲ったことで、メアリーは、「もし、法廷がまともな仕事をしていたら、私の孫たちは今、無事ここにいたでしょうに」と言い、事情を知っている判事は、「継父に養育権を与えたのは、英国の法廷だぞ」と、管轄外を主張。メアリーは、「なら、そいつらのせいでこうなったのよ。手紙によれば、私の孫が英国で行方不明になったのよ」と言いながら、判事に手紙を渡す。判事は手紙を読み上げる。「私どもは、故テレンス・ダヴと その妻モリーン・オフラハティの2人の子供 フィン・ダヴとダーヴァル・ダヴの行方を捜しております。ダヴ夫人が、トバイアス・クロムウェルと再婚したことは分かっております」。ここまで来て、法廷がざわめく。クロムウェルという名前は、アイルランドでは禁句だからだ〔オリヴァー・クロムウェルは清教徒革命の指導者として1649年1月にチャールズ1世を斬首した後、1649年8月~1650年5月のアイルランドを侵略。その際の ①非情な虐殺、飢饉、疫病、②アイルランド人を奴隷として西インド諸島やアフリカに連行、③全土の40%の肥沃な土地の没収による植民地化、により全人口の40~50%が失われたとされる〕〔ここで疑問。なぜ、メアリーの娘ともあろう者が、クロムウェルの姓を持つ男なんかと再婚したのか?〕。「クロムウェル氏、もしくは2人の子供達に関して情報をお持ちであれば、教えていただければ幸いです。子供達は、ダヴ祖父〔テレンス・ダヴの父〕による信託の受益者であり、各1万ドルが与えられます〔アイルランドの通貨は当時アイルランド・ポンドでドルではない。祖父はアメリカ人なのか?〕〔1970年の1万ドルは現在の68267ドル≒740万円〕。もし、子供達の行方が判明しなかったり死亡した場合には、財産権はホーク・ダヴとして知られる伯父のジョン・シリル・ダヴに移ります」。ここまで読み上げたところで、場面は食事後の高級レストランに替わる。大勢の客が、酒を飲みながら話し合っている。そこに、最後の出し物として、ホーク・ダヴによる “ジキル博士とハイド氏の物真似” が始まる(2枚目の写真)。しかし、誰一人として耳を傾けようとする客はなく、完全に無視されたことに怒ったホーク・ダヴは、テーブルを1つひっくり返して楽屋に直行し、即、クビを言い渡される。そこで、遺産管理人から届いた同様の手紙を読んだホーク・ダヴは、2人を亡き者にしようと決心する。そして、付け髭などで変装をすると、マクスウエル・パードンという弁護士に成りすまし、パブで飲んでいたクロムウェルに会いに行く(3枚目の写真)。
  
  
  

ここで、場面は、クロムウェルの家に。2人は、継父の虐待に耐えきれず、ここを出てアイルランドにいる祖母の元に行こうと決心する。フィンが鞄に着替えを入れようとすると一杯で入らない。妹は、「もう入らないわ」と言うが、フィンは、「着替えはできるだけ持っていかないと」と言い、さらに、「どのくらいお金ある?」と訊く。妹が財布を逆さまにして出てきたお金は、低額のコインが10枚だけ(1枚目の写真)。それを見て、フィンは、いったいどうやって、と思ってしまう(2枚目の写真)〔1回分の食費にも足りない〕。経済観念のない妹は、「逃げ出すなんて面白そう」とニコニコするだけ。フィンがもう1つのバッグに詰めようと中を見ると、そこに入っていたのは妹のクマの縫いぐるみ。これ1個でカバン1つを占領しているので、置いていこうと取り出すと(3枚目の写真、矢印)、妹は、「わたしのテディ・ベアよ」と文句。「ダーヴァル、食べ物を一杯持っていかないと」。そのあとフィンは 地図帳からアイルランドの載ったページを破り取る。
  
  
  

そこに、突然、クロムウェルとホーク・ダヴが入ってくる。フィンとダーヴァルは、そこしかないので テーブルの下にバッグ2つと一緒に隠れる。居間に入って来たクロムウェルは、ポツンと残されたテディ・ベアを手に取ってみる(1枚目の写真、矢印)。ホーク・ダヴは、「子供たちを確認したいと思います。遺志によれば、2人が見つからない場合、財産権は伯父のジョン・シリル・ダヴに移りますから」と言い、その言葉をテーブル下のフィンも聞いている(2枚目の写真)。クロムウェルが 「ホーク・ダヴやなあ?」と確かめると、ホーク・ダヴが 「それは、彼の芸名です。鷹〔hawk:ホーク〕と鳩〔dove:ダヴ〕とは、面白い組み合わせですな」と言いながら、床に落ちた地図帳を拾い上げる。その時、ちょうど、クロムウェルが、「彼はそん鷹ば手首に刺青しとーばい。 自らミスター・インポシブルて呼んどってな、どげん変装だってこなす奴でしゃ」と補足したので、テーブルの下の2人は、目の前にいるのがまさにホーク・ダヴその人だと分かる(3枚目の写真)。そして、自分達が非常に危険な立場にいることも。クロムウェルは2階の寝室に駆け上がって行き、いつもとは大違いの優しい声で、「トビーおじしゃんばい。しゃあ起きて、フィン、ダーヴァル」とドアの外から呼びかける。返事がないのでドアを開けると中は空。「2人ともおらん。出て行っちまった!」。大金を取り損ねたホーク・ダヴは悔しがるが如何ともなし難い。しかし、地図帳の破り取られたページから、アイルランドに逃げたことが分かる。クロムウェルとホーク・ダヴは、子供達の写真を持って警察に行き、アイルランドの祖母による誘拐だと訴える〔ホーク・ダヴは、2人を巡る財産については黙っているようクロムウェルに強く注意する〕。一方、警察は、失踪ではなく、祖母が連れて行ったのなら問題はないし、警察が関与するべきでもないといい、弁護士との相談を勧める。ホーク・ダヴは、自分が弁護士だと警察に言うが、汗を拭いている間に片方の付け髭がどこかにいってしまい(4枚目の写真、矢印)、偶然触って気付いたホーク・ダヴは、話を中断して逃げるように出て行く。
  
  
  
  

リヴァプールからお金がないのに どうやってダブリンに行くのか? 飛行機はとても使えない。そこで、最初、フィンは船に直接乗り込もうとしたが、2人だけで搭乗橋を渡ってもすぐに見つかってしまう。そこで、船と連絡している Liverpool Riverside鉄道駅〔1971年2月に廃止(映画の撮影は1970年)〕に行き、列車から降りてくる乗客の中で大家族を選ぶ(1枚目の写真、フィンは右端、その左に妹)。そして、乗船のため列に並んでいる大家族のところに行くと、フィンより少し年上で大きな荷物を持たされている少年に話しかける。「そのバッグ重い?」(2枚目の写真)。「手が折れそう」。「握り手が2つある。僕が片方持とうか?」。「君のバッグは?」。フィンは、背中のバッグを見せる。「それだけか? ラッキーだな。アイルランドには遊びに?」。「そうだよ」。「僕らは毎年行くんだ。行く度(たんび)にバッグが重くなる」。ここで、係員が 「切符を持って前に進んで下さい」と声をかける。フィンは少年のバッグを一緒に持ち、係員が 毎年乗るので顔馴染みになった大家族と楽しそうに話している間に、その一員の荷物運びということで脇を素通りする(3枚目の写真、背後に映っているのは、幼児をあやしている係員。左端の少女も大家族の一員)。こうして、見咎められずに乗船することができた 。
  
  
  

船がダブリンに到着し、タラップを降りるシーンでは、すぐ横に税関の青銅のドーム屋根が見える。現在のフェリー・ターミナルは、ここから3.8キロ下流のコンテナ埠頭の只中にあり殺風景だが、1970年当時はリフィー川を遡って税関の前まで行けたらしい〔現在は、途中に4つも橋があり、客船の航行など不可能だが、これらの橋の開通は、下流から、1984、2007、2005、1978年なので、1970年には橋など1つもなかった〕。税関の建物の張られた幕の上段には 「」、下段には 「DUBLIN CUSTOMS」と書かれている。それを見たダーヴァルは、「なぜ、あんな変な記号が書いてあるの?」とフィンに尋ねる。「ゲール語と英語の両方で書いてあるんだ」。「ゲール語って何?」。「アイルランド語だ」(1枚目の写真)。「アイルランド語って何?」。「ゲール語さ」〔フィンも分かっていない〕。フィンは、税関をパスし、「出口」からこっそり抜け出す(2枚目の写真)〔ここでも、上段にCorcaighと呼ばれる書体でゲール語が書かれている〕〔Corcaighフォントは、現在ではほとんど使われなくなったため、世界中の言語を網羅しているUnicodeにすら入っていない/先ほどの「ダブリン税関」のゲール語の文字は、https://www.myfonts.com/fonts/everson/corcaigh/ で「Custaim ata Cliach」をCorcaighフォントで表示させ、それをpngファイル形式で複雑な画像処理をして貼り付けたもの〕。しかし、税関の職員に見つかり、「待て」と呼び止められる。持っていたバッグに、税関通過済みの印がないため、「家族はどこだね?」と訊かれる〔まさか、2人だけでアイルランドに来たとは思っていない〕。フィンが通関待ちの列を指差すと(3枚目の写真)、待ちくたびれて外に出たと解釈して、そのまま解放される。
  
  
  

クロムウェルは、ボーイング737-248でダブリン国際空港に直行。ターミナルを出たところでローク警部が待っていた(1枚目の写真)〔先ほどのシーンでは警察は関与に否定的だったのに、なぜ急に協力することにしたのだろう?〕。同じ飛行機に乗り、その左側にやって来たのが、変装したホーク・ダヴ(矢印)。因みに、背後に映っているのは、1930年代後半に建設された “モダニズム建築の宝石” と書いてあったダブリン空港の最初のターミナルビル〔現在のターミナルは、2010年オープンの超モダンな建物〕。警部が、現状について説明していると、そこに、ホーク・ダヴが割り込む。「あんたが担当なのかね?」。「担当って?」。「行方不明のガキども」。「そうだが、あんた誰?」。「リヴァプール捜査班の主任警部ウォルコットだ」。ローク警部は、アイルランド警察のルーチンワークで対応できると言い、クロムウェルが助力を得るよう頼んでも 主張は変わらない。すると、“ウォルコット” が、突然怒り出し、「もし、これがあんたの2人の子で、腹が空いたり、凍えたり、沼地で窒息したり、変質者にかどわかされたとしても、ルーチンワークで十分だと言い張るのかね?!」と非難する。そこに、TV局のレポーターが来てクロムウェルにインタビュー。「あなたは、子供たちを誘拐したと、メアリー・オフラハティをまだ非難するのですか?」。「そうばい」。「どうやってメアリー・オフラハティを探すのですか?」。「ゴールウェイ県に住んどー」。「同名女性が1ダースはいるでしょうね」〔ゴールウェイ県は、群馬県より小さく茨城県より大きいくらい〕。アイルランドのTV局なので、“憎っくきクロムウェル” を名を持つ男のこうした態度は面白くなく、「なぜ、祖母が孫たちを奪ったのですか? あなたの育て方が気に入らなかったからなのでは?」とズバリ訊き、当然、クロムウェルは嘘をつく。そして、予め用意した声明を読み上げる。「私は悲嘆にくれた義父です。子供たちが見つかるか、誘拐犯が罰せられる情報を寄せた方に、100ポンド〔現在の約18万円〕進呈します」(2枚目の写真)。それを、親戚一同と一緒にTVで見ていたメアリー・オフラハティは(3枚目の写真)、TVを切ると、「あいつが欲しいのは1万ドルなのよ!」と切って捨てる。
  
  
  

この日は、聖パトリック〔アイルランドにキリスト教(カトリック)を広めた聖人〕の祝日(3月17日)。ダブリンで最も繁華なムーア(Moore)通りは 人でごった返している。ダーヴァルが 「お腹が空いた」と言い出したので、フィンは、ポーク・パイを売っている露店のおかみさんに値段を聞く。返事は1個10ペンス〔十進法化への切り替えは1971年2月からなので、この時点では1ポンド=20シリング=240ペンス。10ペンスは現在の約75円〕。妹の財布の中身のコインは、その10ペンスにも足りなかった。そこで、仕方なく、フィンは2個盗む(1枚目の写真)。盗むのに慣れていなかったのか、すぐに見つかり、おかみさんが大声で叫ぶ〔たった150円なのに〕。それを聞いた巡査が2人を追いかける(2枚目の写真、黄色の矢印はフィン、ピンク色の矢印は巡査)。3枚目の写真は、ムーア通りのグーグル・ストリートビュー。祝日ではないので屋台は少ないが、通りの雰囲気は半世紀後も受け継がれている。2人は電器店に逃げ込むが、そこのTVでは、「警察は、昨夜家からいなくなった13歳と7歳のフィンとダーヴァルの2人の子供を捜してします。ダヴの子供たちの後見人であるクロムウェル氏は、子供たちに関する情報をお持ちの場合、最寄りの警察署まで届けるよう要望され、100ポンドの報奨金を申し出ておられます」とアナウンサーが話している。そして、2人の写真がTVの画面に映り、ヤバいと思った2人は店の奥に逃げ込むが(4枚目の写真、矢印)、TVを見ていた客が店に入って来た巡査に教えてしまう。
  
  
  
  

2人が店を出てから、リフィー川に架かる有名なハーフペニー橋を全速で渡る(1枚目の写真)〔税関の700m上流〕。1枚目の写真では橋だと分からないので、全景を2枚目に示す。1816年〔文化13年〕に架けられた鋳鉄アーチ橋〔世界最古は、ユネスコの世界遺産になっているアイアンブリッジ(1781年)で、ハーフペニーに比べれば35年も先んじているが、それは、記念碑として採算度外視で造られたため。鋳鉄橋が次いで日の目を見るのは、ドイツやイギリスの貴族の庭園のお飾りとして(現存は1790~97年)。そして、イギリスの運河橋として(1796年と1805年は世界遺産)。人や馬車が通れる一般の橋として造られ現存するのは、1815年と1816年のイギリスのアーチ橋。そういう視点で見れば、1816年のハーフペニー橋は恐らくアイルランド最古で、世界でも指折りの歴史遺産となる⇒だから、映画でも渡らせた〕。2人はシナゴーグ〔ユダヤ教の会堂〕に逃げ込み、ミサの最中に2人の侵入に気付いたラビは、ミサが終わり、巡査が2人を捜しに来た時、巡査に シナゴーグの出口で会衆をチェックするように助言して会堂から追い出す。そして、2人を地下に連れて行って事情を尋ねる。「どうして巡査に追われているのかな?」。「お腹が空いたから、ポーク・パイを2個盗んだんです」(3枚目の写真)。豚肉を不浄と考えるラビは、「豚肉」と呆れ、「飢えは犯罪ではない。また、それが原因であってはならない。これには、ソロモンの裁きのような決断が要るな」と、策を考える〔ソロモンの裁きとは、1人の子供の所有権を争う2人の女性が、子供をつかんで奪い合った時、子供の苦しみを見て 手を放した方が本当の母だとしたもの〕。次の場面では、シナゴーグの出口に立った、黒装束の “男性” に対し、ラビが、「今度 お腹が空いた時にはチキンを食べなさい」と言って外に出す。巡査は、子供ではないので気付かない。“男性” は階段を下りると、フィンがダーヴァルを背負っていることが分かる(3枚目の写真)。フィンは背負うのをやめると、ラビから借りた黒服を 渡されたハンガーに掛け、黒い帽子と一緒にシナゴーグの柵に掛ける。
  
  
  
  

映画は、その後、4分弱にわたって聖パトリックの祝日のパレードを延々と描写する。『オリバー!』のメイン・キャスト5人のうち2人が出演していることから、集団ダンスの「Consider Yourself」のアイルランド版を挿入したのか? フィンとダーヴァルが登場するのは、後半の1分半弱。先ほど助けてもらったラビと一緒だ(1枚目の写真)。映画のストリーとは全く無関係だ〔逆に、TVに2人の顔が映し出された後だけに 違和感を覚える〕。次のシーン。2人は田舎道を話しながら歩いている。すると、横道で休憩していた荷馬車の男が2人に気付き、馬車を出すと後ろから近づいて行く。その音を聞いた2人が振り返る。「乗りたいか?」。ダーヴァル:「はい」。フィン:「もう何時間も歩き続けてて」。それが目的なので、男は2人を荷台に乗せる。「車通りの少ない道だから、運が良かったな」「ダブリンにいたのか? 俺は今からララフォード(Laraford)に行く」(2枚目の写真)。それを聞いたダーヴァルが、「それって、ゴールウェイ県の近く?」と不用意に訊く。「お前ら、ガロウェイ〔ゴールウェイのアイルランド式発音〕に行くんか?」。フィンは、素性がバレると困るので、「ううん、キルデア(Kildare)だよ。こいつ こんがらがってるんだ」と打ち消す。ここで、参考のため、3枚目に地図を載せる〔なるべく古いものを探したが、一番古くて1990年のものだった〕。ここで、右端の丸印がダブリン、左端の丸印がゴールウェイ県の県都ゴールウェイ。右から2つ目の小さ目の丸印が、キルデア。一方、男が口にしたララフォードという地名は存在しない。ただ、次の節でローク警部が指差したのは、地図の中央右にある点線の丸印の辺り。キルデアと “ララフォード” とでは方向が違っているので、フィンが “キルデア” と言ったのは、町ではなくキルデア県のことであろう。キルデア県の場所は、キルデアの町の周囲の不定形の点線で囲まれた部分。これなら、北辺の地域は ダブリン~“ララフォード” 間の道路に含まれる。なお、この地図の中央の小さな丸印2つは、次節でローク警部が述べる、“ララフォード”~ゴールウェイ間で、シャノン川を渡る橋がある箇所。だから、この2ヶ所を見張ることになる。最後に、ゴールウェイの町の周辺の不定形の点線で囲まれた部分がゴールウェイ県。メアリー・オフラハティは、このどこかにいる。絵葉書では、祖母の家にすぐ近くに湾が拡がっていることは分かるが、これだけ海岸線が長いと、付帯情報がないと辿り着くことはできない。ここで、ダブリンの警察署が映る。“ウォルコット” 主任警部はローク警部と同じ部屋にいる。そして、「あれから10時間も経った! アイルランド人ってのは、動こうとしないのかね?!」と、イライラして話しかける(4枚目の写真)。ローク警部は、「準備ができ次第、迅速に動きますよ。無駄な捜査〔chasing wild geese〕に意味はありません、ウォルコットさん」と 平然と答える」。
  
  
  
  

“ララフォード” に着くと、男は 「喉が渇いたな。ここで待っとれ。ギネス〔アイルランド産の黒ビール〕を一杯やったら、レモネードを1杯ずつ持ってきてやる」(1枚目の写真)と言って馬車を降りた後で、空を見上げ、手首をさすりながら 「天気が変わるな」と言い出す。「どうして分かるの?」。「入れ墨だ。天気の変わり目に いつも痒くなる」。この言葉で2人は彼がホーク・ダヴかもしれないと思い、急いで馬車を降りると、窓からパブの中を覗く。すると、男が電話をかけているのが見えたので、彼が誰にせよ、警察に通報していると直感する。そこで、可能な限り早く その場を逃げ出す。男が電話をかけたのは、その町に一人しかいない とっぽい巡査。男は、新聞に載っていた “行方不明の2人” が町のパブにいると通報する。「私が行くまで、そこに留めておくように」と言って電話を切った巡査は、家から出てくるが、ちょうどその時、フィンとダーヴァルもその家の前まで走ってきて、突然 妹が走れなくなる。「どうした?」。「足首が痛いの」。巡査は、ネクタイにかかりきりで、玄関の前に立っているのに2人に気付かない。フィンは、家の脇の建物に停めてあったった巡査の自転車のところまで走って行くと、それを持ち逃げしようとする。妹は、「お兄ちゃん、また盗むのね!」と非難すると、「借りるだけだ。乗れよ」(2枚目の写真、矢印の巡査は、このあと階段に足を載せて靴紐を結ぶ)。振り向いて自転車置き場に行った時には、もう自転車はどこにもない。巡査は、形式第一主義なので、まず盗難報告書をしたため、それからパブに歩いて行く。パブに着いた巡査は、ダブリンのローク警部に電話し、2人の子供が見つかったと誇らし気に “ウォルコット主任警部” に知らせる。“主任警部” が、「ララフォードってどこだ?」と訊くと、「ララフォードはゴールウェイへの途中にある」と言って、地図上の一点を指す(3枚目の写真)〔この場所が、前節の地図で点線の丸印で示した地点〕。彼は、さらに 「子供たちは、アスローン(Athlone)かシャノン・ブリッジ(Shannon Bridge)でシャノン川を渡らないといいけない」と言い、“主任警部” のごり押しもあって、2人(ホーク・ダヴとクロムウェル)を乗せて 自らアスローンに赴く。
  
  
  

その日の夜、フィンは 教会の石塀にもたれ掛かるように自転車を置くと鉄柵を開けて中に入る。そこには様々な形の墓石が立っていて、妹は気持ち悪がるが、フィンは 「どこかで寝なくちゃ」と慰める。「永遠はイヤよ」。一角に石室のような場所があり、フィンは 「洞窟みたいだ。岩の下なら乾いてるから、ここで寝よう」と、バッグを枕代わりにして2人で横になる(1枚目の写真)。このロケ地は、スレーン(Slane)〔ダブリンの北北西約40キロ〕に残る旧聖パトリック教会の墓地。2人が眠ってしばらくすると、すぐ近くで大勢の声がする。2人がびっくりして起きると(2枚目の写真)、それは密造業者が、ポティーン(poitin)と呼ばれるアイルランド独自の密造ウイスキーの入った金属容器を大量に墓石の下の空間に隠していたのを取りに来たのだ。連中の一人が、「急げ、ガロウェイまでは遠いぞ」と言ったので、容器が積み込まれているボロ・トラックがゴールウェイまで行くことが分かり、2人は幌を被った荷台の一番奥に身を潜める。2人が男たちの様子を窺っていると(3枚目の写真)、その中の1人が、日中 “ララフォード” まで馬車に乗せてくれた入れ墨の男だと分かる。その男は、フィンが放っておいた巡査の自転車を盗むと、トラックの荷台に載せる。誰かが、その窃盗行為を 「お前さんのボロ・トラックがエンコした時、役に立つかもしれんな」と皮肉る。
  
  
  

夜が明けて明るくなった頃、ボロ・トラックでヒッチハイクしようと、靴を片手に掲げて停まるよう頼んだ男がいる。それが何と “ララフォード” のとっぽい巡査。「アスローンまで乗せてくれ」。「俺のトラックは 豚よりのろいぞ」。「歩くより早い」〔この場面には、かなり無理がある。①フィン達は、“ララフォード” から自転車で逃げ、暗くなってから教会に着いた。“ララフォード” と推測される場所からアスローンまでの実走行距離は約30キロ。時速8キロで自転車を漕いでも4時間でアスローンに着いてしまう。しかも、2人はアスローンのかなり手前の墓地で夜を過ごした。②トラックは、夜に墓地を出て時速8キロで走ったとしても、明るくなってもまだアスローンには着いていない、③巡査は、“ララフォード” から20キロ以上歩いて来たのだろうか?⇒“ララフォード” という架空の町が、ローク警部が差したよりずっとダブリン寄りにあれば、③以外問題は生じないない(この場合、巡査が歩いた距離はもっと長くなる)〕。巡査をトラックに乗せた後、入れ墨男は、「自転車ぐらいくれてもいいのに」と訊く。「自転車はある。だが、昨日、家の前から盗まれた」。その後の台詞も断然変だ。「他にもいろいろあった。行方不明の英国の子供たちが、昨夜ララフォードにいるのが見られている」〔この情報を巡査に電話で伝えたのは入れ墨男〕。「どんな子だ?」。巡査は、手帳を見ながら 「赤毛の12歳〔遺産管理人の手紙とTVでは13歳〕の少年、金髪で真っ赤なセーターを着た7歳の少女」と言い、この言葉は、運転席のすぐ後ろにいるフィン達にも聞こえている(1枚目の写真)。巡査は、さらに、「報奨金は100ポンド。私が請求する」と言う。それを聞いた入れ墨男は、「100ポンドは俺のものだ。電話をしたのは俺だ」と主張。一方、アスローンでは、ローク警部が、集められたこの地方の巡査を前に、「緊急事態だ。すべての車を調べろ。質問を躊躇してはならん」と訓示(2枚目の写真)。如何にも威張った感じでふんぞり返っているのが巡査部長。そこに、入れ墨男のボロ・トラックが入ってくる。トラックを停めると、入れ墨男はすぐに、「100ポンドくれ。俺が通報したんだ!」と要求し(3枚目の写真)、“ララフォード” の巡査も 「部長、報奨金は私に」と叫ぶ。
  
  
  

こうした状況に腹を立てたホーク・ダヴは、入れ墨男の襟をつかむと、「ガキどもはどこだ? 嘘をつくと、誘拐、偽証、警察妨害で逮捕するぞ!」と詰め寄る。ホーク・ダヴは、トラックを調べるべく中に入り、隠れていたフィンとダーヴァルを引っ張り出す(1枚目の写真)〔フィンは金髪、ダーヴァルは黒髪で赤いセーターは着ていない〕。2人を見たローク警部は、「行方不明の少年は赤毛で、少女は金髪だ。その子たちは2人ともロマニー〔ジプシー〕の男の子で、牧羊犬のダニみたいに只乗りしていたのだろう」と言い、その場から追い払われる。ホーク・ダヴは、2人がいた荷台の最前部まで行くと、そこにあったものは、①蓋の開いた靴墨の缶とスポンジ、②大きなハサミ、そして 決定的だったのが ③赤いセーターと それにくるまれた ④金髪。2人に “してやられた” と悟ったホーク・ダヴは、トランクから飛び降りると、ローク警部に、「ロマニーのガキだと!」と怒鳴ってセーターと金髪を渡すと(2枚目の写真、矢印)、2人を追って走り出す。ローク警部は、クロムウェルを呼んで、その後を追う。フィンとダーヴァルは、通りを走って店の前を右に曲がる(3枚目の写真、矢印はホーク・ダヴ)。4枚目の写真は、ロケ地のアゼンリー(Athenry)の町〔アスローンの西南西55キロ〕にあるThe Squareという名前の通りのグーグル・ストリートビューの画像。アスローンも似たような街並みなので、なぜ別の町でロケしたのかは不明。因みに、ホーク・ダヴが出て来た場所の奥は、1枚目の写真の建物とは全く違うし、2人が右に曲がった先も、こことは違う場所。アゼンリーでのロケは、この場面のためだけに行われたことになる。それにしても、撮影から半世紀経つが、壁の色は変わっても街並みが全然変わっていないとは大したものだ。
  
  
  
  

ホーク・ダヴは、後を追ってきたローク警部とクロムウェルに、2人はT字路を直進したと嘘を付き、邪魔者がいなくなってから、自分は右の路地に入って行く。その奥は行き止まりになっていて、ホーク・ダヴが追ってきたことを知ったフィンは、妹と一緒に石造りの倉庫のたくさん並んだドアの1つから中に入る。そこから先は、無声映画時代のコミカル・シーンの再現(?)で、それらしい音楽が流れ、3つのドアのどこからか2人 もしくか ホーク・ダヴが姿を見せる。1回だけ、バラバラになった3人が、3つのドアから姿を見せるシーン(1枚目の写真)もある。その後、隙を見て、2人は向かいにある倉庫の2階のバルコニーに逃げるが、それに気付いたホーク・ダヴが、Π形の鉄の楔〔それで刺し殺すつもり〕をバルコニーの手すりに滑らせて急接近(2枚目の写真、矢印はΠ形の丸くなった先端)。幸い、丸くなった先端が手すりに引っ掛かって取れなくなり、その隙をついて、2人はドアを開けて倉庫の1階の綿花(?)の上に落下。ホーク・ダヴは、コートが壁の鉄棒に引っ掛かって降りられなくなる。コートが裂けて落下した時には、とっくに2人は逃げていなくなっていた。追跡に失敗したホーク・ダヴが肩を落として通りを歩いていると、クロムウェルと一緒に戻って来た警部は、なぜ違う方角に言ったのかと疑問をぶつける。“引き返してきた時のため” という口実は、そんなことができない道路の構造になっているため警部に疑惑を抱かせる(3枚目の写真)。そこで、ホーク・ダヴが この役は止めようと決心し、休暇の魚釣りに行くと言って去った後、ダブリンに電話をかけ、ウォルコット主任警部の所在を確認するよう依頼する。
  
  
  

次のシーンでは、2人が水路沿いに歩いている。アスローンがシャノン川沿いの町だったので、2人が川沿いに歩いていると誤解してしまうが、実際には、シャノン川の川幅は100メートルくらいなので こんなに狭くはない。フィンが、「兄ちゃんの金髪どうだ?」と妹に訊くと、「髪を切ったことは何とも思わないけど、靴磨きってすっごく臭いの。私たち、報奨金もらえないかしら? 100ポンドあれば、お腹が空かなくて済むでしょ」と不平を漏らす。「お前は、もっと勇敢にならなきゃ」。「私は勇敢でも、胃は違うの」。その時、2人は 繋がれたロバの脇を通る。フィンが、草を引きちぎってロバに食べさせると、妹は 「草が食べられたらいいのに」(1枚目の写真、矢印は草)。「トラックに乗れなくなったから、ロバに乗るってのはどうだい?」。「また盗むの?」。「借りるんだ。さよならしたら、自分でちゃんと ここまで戻れるさ」。フィンは妹をロバの背に乗せ、ロープを引き抜いて歩き始める。前方に石橋が見えた時、ロマニーの子供達が駆け寄ってきて、「そいつは俺たちのロバだぞ!」と叫んでフィンに襲い掛かる(2枚目の写真)。この場面のロケ地は、シャノン・ハーバー(Shannon Harbour)〔アスローンの南23キロ、シャノン・ブリッジの南東9キロ〕。観客にシャノン川だと思わせた水路は、シャノン川から分岐した大運河(Grand Canal)で、この地はかつて水運の拠点だった(3枚目はグーグルのストリートビューの画像、ここも半世紀前とほぼ同じ)。2人は、ロマニーの典型的な円形馬車のあるキャンプ地まで連れて行かれる〔ロケ地点は、アスローンとシャノン・ブリッジの間にあるClonmacnoise城址〕。そこで、一家の母親代わりの娘シーラが2人をロバ泥棒と強く非難する。フィンが借りただけと言っても、嘘つき呼ばわりされる。2人は隙を見て逃げ出すが、すぐ父親のライアンに捕まる。そして、シーラがフィンの頭から帽子をつかみ取ると、帽子の縁に沿って金髪が貼りつけてあったので(4枚目の写真、矢印、背後に円形馬車)、「これ何なの?」と、気持ち悪くなり捨てる。ライアンは、今朝、町のTVで2人の写真を見たと言い、名前も知っている。そして、親切なことに、「朝になったら、俺たちと一緒にシャノン・ブリッジを渡ろう。ポリ公に分かるハズがない」と言ってくれる。
  
  
  
  

その夜、焚き火の横で、ギターを弾きながらシーラ役のDanaが『The Far Off Place〔遙かなる地〕』を歌う(1枚目の写真)。前半は、ゲール語。「I d'Tír na n'Óg, is mé a shúil an trá mór ár buí, Sa hais mé don stóir, nach raibh éir an grá na chrainn na chroí, Daithímuid síos agus leabhair sé liom, as thaoir sa rághas go bím, Is thuair mo rúain, mo ghrá, mo stóir is fuimhainn ar d'Tír na n'Óg」。この訳はどこにも見当たらないが、独特の響きに心打たれるものがある(http://www.youtube.com/)。歌が終わった後、フィンが歌詞の意味を訊くと、『遙かなる地』、アイルランド語で『チル・ナ・ノーグ(Tír na n'Óg)』だと教えられる。「そこは、あんたが行きたいなと思う 美しい魔法の地なの」。フィン:「僕らが目指す、お祖母ちゃんの家みたいに?」。「そうよ、私は遠い海の彼方に行きたいわ」。「じゃあ、シーラも行くんだね?」。「ううん。誰も、“遙かなる地” に辿り着いた者はいないの。ロマニーの娘には無理ね」。ダーヴァルは、「私たち、お祖母ちゃんちに行くわ」と兄を見上げる(2枚目の写真)。その後、シーラは、後半を歌う。今度は英語だが、前半の英語訳ではなく、内容は全く違っている(“Tír na n'Óg”, “遙かなる地” の場所と回数が違う)。この部分は、日本語の私訳を示そう。「雲がゆったりと漂うのを見ると、遙かなる地を夢見る。鳥たちがそっと飛ぶのを見ると、遙かなる地を夢見る。顔に浮かべる私の笑みを、神が見ていると時に思う。いつの日か、ここを離れ、遙かなる地に住みたい」。その頃、TVではメアリー・オフラハティが反撃に出ていた。インタビューで、「トバイアス・クロムウェルは、私が孫たちを誘拐したと言ってるけど、あいつは嘘つきよ! 孫たちが私の家に着いたら、何があろうと、絶対 誰にも渡すもんですか!」(3枚目の写真)。アナウンサーは、報奨金が200ポンドに引き上げられたと言って締めくくる。ライアンも、パブでその放送を見ている。
  
  
  

翌朝、観光バスが着き、ガイドが、「ここシャノン・ブリッジでは典型的なアイルランドの家畜品評会が見られます」と案内している。「ロマニーの子供たちが小銭をせがんでいます」。その言葉に違わず、ダーヴァルはビールの屋台に座った老人に寄って行くと、「銅貨をお願い、お腹ペコペコなんです」とお願いする(1枚目の写真)。そして、恵んでもらうと、「ありがとうございます。神のお恵みがありますように」と丁寧にお礼を言う。そのあと、観光バスのお客におねだりするが、そこで、円形馬車の窓から顔を覗かせたフィンに呼ばれる。少女の姿に変装したフィンを見て、ダーヴァルは笑い出す。「警察は12歳の少年と、7歳の少女を捜してる」(2枚目の写真)〔ここでも12歳になっている/昨日、金髪の少年と黒髪の少年に変装したとバレたので、赤毛の少女と黒髪の少年になった〕。「すっごく変よ」。「物乞いするなんて恥を知れ」。「ロマニーの人たちを助けてるだけよ」。2人が話していると、そこに、他の観光客が寄って来てカメラを構える(3枚目の写真、矢印は変装したホーク・ダヴ。この時点では、2人に まだ気付いていない)。この場所のロケ地は、偶然、映画と同じシャノン・ブリッジにある聖キアラン教会の前(4枚目の写真は、グーグル・ストリートビュー)。橋の東側なので、橋はまだ渡っていない。因みに、シャノン・ブリッジは、5枚目の写真に示すように、かなり長い石橋(1757年完成)。
  
  
  
  
  

ライアンが、朝、パブで新聞を見ると、一面にフィンとダーヴァルの写真が掲載され、「ダヴの逃走〔映画の原題〕」の大見出しの下に、「報奨金、現在400ポンド、子供達はどこに?」と書かれている(1枚目の写真)。これを見たライアンは、400ポンド〔現在の約72万円〕に上がった報奨金に魅了される。そこに2人が入ってきて、フィンが、「済みません、シーラさんを見ませんでしたか?」と尋ねる。「何でだ?」。「さよならを言わないと」。「どこかに行くんか?」。「お祖母ちゃんのトコに」〔映画とは違い、シャノン・ブリッジの西側には家は一軒もないので、橋はまだ渡れていない⇒だから、さよならを言うのはまだ早い〕。ライアンは、「お前はどこにも行かん」と言うと、フィンの肩をつかむ。アスローンの警察署では、ローク警部と “とっぽい巡査” が同時に別の電話を取っている。前者は リヴァプール警察からの報告、後者は ライアンからの通報だ。先に電話を終えた警部が、クロムウェルに向かって、「あなたのウォルコット警部について、実に興味深い情報が入りました」と嬉しそうに言った時、“とっぽい巡査” が子供達が見つかったと報告したので、楽しい話は後回しにして 3人は署を飛び出して行く。フィンがパブに入って行くと、父が2人を捕まえているので、「父ちゃん、何してんのさ?」と驚いて訊く。「邪魔すんな。今、400ポンド稼いだ。警察に電話したんだ」(2枚目の写真)。「可哀想な子供たちを、お金で売ったん?」。この会話の隙を見て、フィンは腕でライアンの胸を強打すると、妹を連れてパブから逃げ出すが、すぐに捕まって戻される。しかし、それを外のテーブルで他の観光客と一緒に座っていたホーク・ダヴが見て、パブに入って行き、「その子たちを放しなさい! 虐待してるのを見ましたよ!」と虐めを抗議する。そして、「放さないと、警察を呼びますよ」と警告。「警察ならもう呼んだ」。「2人のロマニーの子を逮捕するため?」。これを受けて、ダーヴァルは 「私、ロマニーじゃない」と言い、フィンは 「僕ら、ダヴの子供たちだ」と話してしまう。これは、ホーク・ダヴにとっては願ってもないない話だったので、警察が来る前に奪い取ろうと、新聞記者になりすまし、特ダネになるという口実で 一発ライアンの頬にお見舞いする。男性の強力な一発だったので、酔っているライアンはよろめく。ホーク・ダヴは、ライアンの手をつかむと、2人に向かいの車に乗るよう指示し(3枚目の写真)、ライアンにはさらに足で何度も蹴る暴行を加えて動けなくした後で、車に走り乗る。そして、2人を座席に屈ませると、発進。その時、ちょうどローク警部たちを乗せた車が到着する(4枚目の写真)。5枚目の写真は、シャノン・ブリッジのメイン・ストリートのグーグル・ストリートビュー。4枚目の写真と同じ位置。右の矢印はパブ、左の矢印はホーク・ダヴの車が停車してあった場所、正面の建物の右側を行くと前節の石橋でシャノン川を渡る。
  
  
  
  
  

ホーク・ダヴの仮の名前はマーブルストーン。ダーヴァルが、「あなたみたいに親切な大人の人は初めてです」とお礼を言うと、“マーブルストーン” は、「気にしないで。私は、あなたたちの話を一面に載せたいだけなの。『ダヴの逃走』。マーブルストーンの署名入りよ」と嬉しそうに言う。フィン:「きっと、スクープ連発なんでしょ?」(1枚目の写真)。「私の担当は『静かな片隅』と『今日の運勢』。スクープとは無縁よ」。後を追う警察車両の中では、クロムウェルが、「1回ならまだしも、3回も取り逃がすとは。ウォルコット警部がおってくれたら良かったとに」とブツブツ。それを聞いた警部は、「いい知らせですよ。さっき電話がありました。リヴァプール警察のウォルコット主任警部は、ローマで休暇中です。アイルランドには来ていません。我々が会ったのは詐欺師です」と報告。クロムウェルは、「ホーク・ダヴや」とピンと来る。「誰です?」。「子供たちん伯父で、子供たちに何か起きたらお金ば全部手に入る」(2枚目の写真、後部座席の巡査は茹で玉子の殻を取っている)。「お金ですと? 今回の件に関わるすべてをちゃんと話していただきたいですな」。“マーブルストーン” の車の中では、フィンが、海に突き出た古城を発見。車はその前で停まる。3枚目の写真は、映画の場面で、ダンルース(Dunluce)城址。13世紀に初代の城が造られ、16世紀の初め頃に改築、18世紀以降使われなくなり、今では廃墟になっている。現在も同じ形なので現状写真は載せないが、場所は、ポートラッシュ(Portrush)の東、ゴールウェイの北東270キロのアイルランド北端にある。ゴールウェイの周辺に古城がないわけではないが、地形の関係でこうした立地条件ではない。こうした感じ海に突き出た断崖上の城は滅多になく、撮影効果から敢えて遠方のこの城を選んだのであろう。それは、隣の英国でも同じで、4枚目のダノター(Dunnottar)城〔私の撮影、スコットランド〕ぐらいしか こうした立地の古城はない。因みに、両方とも “Dun” で始まっているが、元となったゲール語のDún Libhse(ダンルース)、DùnFhoithear(ダノター)のDunが要塞を意味しているため。
  
  
  
  

ホーク・ダヴは、2人を突き落として殺すのにはうってつけの場所だと思い、廃墟の中に入って行く。絶壁の上に架けられた見学用の橋から海を見下ろしたダーヴァルが 「怖い」と言うと、ホーク・ダヴは、「ほら、手を握って」と入れ墨の入った手を差し出す。手を取った時、ダーヴァルは鷹の入れ墨に気付いて驚愕するが(1枚目の写真、矢印)、ダーヴァルは、緊張すると何も言えなくなるので、この恐ろしい真実をフィンに伝えることができない。フィンは、男の子らしく、廃墟の一番高い所まで走って行き、2人に早く来るよう促す。最高地点は、絶壁に面した場所で、ホーク・ダヴは 「まさに うってつけね」と満足そうに言うと、2人を絶壁側に立たせ、写真を取ろうとする(2枚目の写真)。そして、「ダーヴァルの服を直しましょうね」と、突き落とそうと手を伸ばすが、言葉では何も言えないダーヴァルは、その手を取って噛みつく(3枚目の写真)。この行為により、鷹の入れ墨がフィンにも分かり、ダーヴァルを引っ張って安全な方に逃げる。バランスを崩されたホーク・ダヴは、そのまま落下するが、最後の部分は斜面を滑り降りる形となり、安全に海に突入する(4枚目の写真)。
  
  
  
  

フィンは、ホーク・ダヴが死んだとは思えなかったので、早く祖母の元に行こうと、城を出て走り始める(1枚目の写真)。この場面のロケ現場は、恐らく2枚目の写真(グーグル・ストリートビュー)の道であろう。それは、背景の山の形が一致するから。この場所は、ゴールウェイ県のコリブ湖(Cough Corrib)の北縁にあるコング(Cong)の町の西。3枚目にある祖母の家のロケ地だ。しばらく走ると、ダーヴァルはつまづいて転び、「お兄ちゃん、私を連れて来るべきじゃなかった」と、弱音を吐いて泣き出す。「私がいなかったら、きっと行けたのに。ごめんね、私 女の子なの。でも、お祖母ちゃんより、お兄ちゃんの方が好きよ。だから、置いてかないで」。その言葉で、フィンは妹を担ぎ上げる。すると、高い場所まで上がったダーヴァルの目に入ったのは、祖母から来た絵葉書にあったのと同じ家だった(3枚目の写真)〔この場所の特定は、ストリートビューでは無理〕。「お兄ちゃん、見て! お祖母ちゃんの家よ!」。「僕たち、やったんだ!」(4枚目の写真)。
  
  
  
  

そこに、2頭の馬に乗った2人の大叔父が現われ、それぞれ馬に乗せてもらえる(1枚目の写真)。そして、絵葉書通りの藁葺屋根の家に到着。家から出てきた祖母に抱擁される(2枚目の写真)〔この家は、1970年代に焼け、その後スレート葺屋根に変わったと書いてあった〕。祖母は、思わず 「私の孫たちじゃなくて、ロマニーの兄弟みたい」と言う(3枚目の写真)。「ロマニーだったわ」。「髪の毛どうしたの?」。「靴墨」。「2人とも、すぐに熱いお風呂に入らないと」。
  
  
  

そこに、巡査が隊列を組んで歩いてくるのが見える。祖母は、すぐに2人を家の中に退避させる。一人自転車に乗って来た巡査部長は、巡査9名を門の前に整列させると、扉を開けて中に入り、「メアリー・オフラハティさん、その子供たちは、裁判所の保護下にあります。連れて行きますぞ」と声をかける。祖母は、「子供たちって?」と とぼける。「さっき、家に入って行ったでしょ」。祖母は、馬に乗った2人の弟に 「子供なんか見た?」と訊く。巡査部長:「家に入りましょう。それで一気に解決だ」。祖母:「令状は?」。「令状がどうかしました?」。「あんたの そのデカ足が一歩でも敷居を跨いだら、逮捕させますからね、巡査部長」。「すぐ令状を取って来ますぞ」。「今度来る時は、兵士の連隊と、県内の警官全員を連れてらっしゃい。機関銃と水爆も忘れずにね。やれるもんならやってみなさい、巡査部長」(1枚目の写真、矢印)。時間が経ち、TVの取材班がやって来る。祖母を守ろうと集まった近くの農民の一隊もいる。そこに、10名の巡査を連れた巡査部長がやってきて、待ち構えていた祖母の弟の一人に、「この連中は、ここで何してるんだね?」と訊く。「仕事の前にちょっと休んでるだけさ」。「そうは見えませんな。ここに、お宅の姉さんが要求した令状がありますぞ」。弟は、家に向かって、「メアリー姉さん、巡査部長が会いたがってる」と叫ぶ。家の中では、風呂に入って汚れを落とし、服も着替えた2人が2階から降りてくる。祖母は、2人に、「巡査部長が玄関から入って来たら、デルモット・カックランさんが裏口に来て 道を下った所にある家まで連れて行ってくれる。巡査部長が、その家に対する令状を持って来たら、別の家に移ればいい。県内には100年以上移動し続けられるだけの家があるわ」と対策を話してくれる(2枚目の写真)。それが済むと、祖母は玄関から出て行く。そこには、クロムウェルも来ていて、彼は、①オフラハティの娘の夫で、②フィンとダーヴァルを大事にしてきたから、返して欲しいと頼む。祖母は、フィンとダーヴァルには、クロムウェルの血など一滴も流れていないからと、断固拒絶。それを聞いた巡査部長が、令状に基づいて強制執行しようとすると、鎌を持った農民達が迫り、巡査部長も文字通り脱帽(3枚目の写真)。
  
  
  

そこに、ローク警部の車がやって来て、助手席から釣り竿を持ったリフィー判事が降りる(1枚目の写真、矢印)。休暇中で釣りを楽しでいた時、警部に有無を言わせず連れて来られたのだ。その頃、祖母の家では、デルモット・カックランに化けたホーク・ダヴが裏口から入り(2枚目の写真)、2人を連れて行く。声でバレるかもしれないので、手振り身振りで喜ばせて連れ出す。その頃、門の所では、リフィー判事が私人の資格でと念を押し、ローク警部が家の中で話し合いたいともちかけ(3枚目の写真)、祖母もOKする。
  
  
  

“デルモット・カックラン” は、家には連れて行かず、手振りで祖母の納屋に入るよう合図する。2人が納屋に入ると、入口脇の柱に掛かっていた “首切り鎌”(極端に歯がカーブした鎌)を手に取って納屋に入って行く。ダーヴァルが、家に行くハズなのに納屋に来た理由を訊き、フィンが背中に何を隠しているか訊くと、“デルモット・カックラン” は、「君たちに サプライズを用意した」「後ろを向いて、いいと言うまで振り向かない」と言うと、鎌を振り上げるが、2人に切りつけることをためらう。そのうち、待ちきれなくなったフィンがチラと振り向いて、「ホーク伯父さんだ、逃げろ!」とダーヴァルに叫ぶと、ホーク・ダヴに藁束を投げつける。しかし、ホーク・ダヴはダーヴァルを捕まえ、首に鎌を当て、「口をきくな」とダーヴァルに命じる。フィンは、乾草を扱う巨大なフォークを構え、「ホーク伯父さん、どうして僕たちを殺すの?」と訊く(1枚目の写真)。ホーク・ダヴは、「殺したくなんかない! 奴らがそうさせるんだ!」と責任を転嫁(2枚目の写真)。ホーク・ダヴは、①いつも(下手な芝居の収入の)半分はピンハネされた、②1万ドルは自分の物、③1回ぐらい勝ちたい、負け犬にはうんざりした、と叫ぶように言うが、ブラブラ動く “付け鼻” が、如何にも下手な役者であることを象徴している。それに対し、ダーヴァルは、「ホーク伯父さんは、悪い人に見えないわ」と優しく言い、フィンも 「お金が欲しいんなら、あげるよ」と言う。ダーヴァル:「私たち、お祖母ちゃんとここで暮らすの。ロバもいる」(3枚目の写真)。フィン:「ポニーも」。「アヒルも」。「犬も」。「お願い、殺さないで」。こうした言葉を聞いたホーク・ダヴは、「こうなると思ってた」と言って鎌を捨てる。
  
  
  

一方、母屋では、クロムウェルが、ホーク・ダヴが偽造した書類を持ちながら、得々として、「うちゃ、子供たちん法定後見人ばいぞ。これが、子供たちん養育権ばうちに認めた裁判所ん命令ばい」と言いながら、命令書をテーブルに叩き付ける(1枚目の写真、矢印は命令書)。リフィー判事は、「その命令書は、誰から受け取ったんだね」と質問する。「うちん弁護士んパードンしゃんばい」。そこに、“パードン” ことホーク・ダヴが、弁護士だった時とは全く違う風貌で部屋に入って来て、「私がパードンです。命令書は偽物です。私は弁護士ではありません」と言い、フィンとダーヴァルを部屋に入れる。クロムウェルは2人を迎える格好をするが、2人が抱き付いたのは祖母の方。ローク警部は、「君は誰なんだ?」と訊く。「ジョン・シリル・ダヴ、舞台ではホーク・ダヴとして知られている」(2枚目の写真)。そして、クロムウェルについて、「子供たちに対するあんたの興味はお金だけだ」と切って捨てる。ローク警部も、クロムウェルがお金のことを伏せて、子供達の誘拐だけを訴えた態度を批判する。ここで、ホーク・ダヴは、ローク警部に自分が誰だったか分からせようと、“ウォルコット主任警部” の声で、前に言った台詞を短くして、「もし、これがあんたの2人の子で、腹が空いたり、凍えたとしても、ルーチンワークで十分だと言い張るのかね?!」と怒鳴ってみせる。これを聞いた警部は、「素晴らしい。だが、いいかね、ジョン・シリル・ダヴ、私は君を、警官に成りすまして捜査を妨害したかどで逮捕する」と宣告する。リフィー判事が、「私は法に慈悲を加味することで知られている」と発言すると、ホーク・ダヴは、判事に向かって 「慈悲は強制されるものではない。恵みの雨のように天から下界に落ちてくるもの。慈悲には二重の祝福がある。与える者に、そして受け取る者に…」と演劇調に語りかけ、隣の部屋に連れて行かれる(3枚目の写真)。祖母が、「あれ何だったの?」と判事に尋ねると、「『ヴェニスの商人』 4幕1場」とすぐに答える。
  
  
  

リフィー判事は、「さて、そろそろ 悪戯の張本人たちから話を聞くべき時が来たようだと思う」と言い、2人を近くに来させる。そして、フィンに、「君たちは鼻高々だろうな? 家出して、海を渡り、警察を振り回し、目的地に凱旋した」と尋ねる(1枚目の写真)。「違うよ。すべて妹のためにしたんだ」。そこで、判事はダーヴァルに、「ドビーおじさんの家に戻ったら、どうするかね?」と訊く。「チャンスを見つけて、すぐまた逃げ出すわ」。判事→フィン:「なぜ? トビーおじさんは君たちに冷酷だったのかな?」。「問題は愛情だよ。妹のような小さな子には、愛してくれる誰かが必要なんだ。僕は もう大きいから何とかできるけど、妹には無理。ドビーおじさんは、妹を可愛がろうとしなかったから」(2枚目の写真)。この “ストレートな告発” を聞いた判事は、クロムウェルに、「あなたは、子供達に不親切でしたか?」と訊くが、これはバカげた質問で、YESと答える者などいるハズがない。クロムウェルは、「とんだっちゃなかとです〔とんでもありません〕。たまに罰することはあったが、そりゃ2人んことば思うたけんばい」と答える。このやり取りに頭に来た祖母は、クロムウェルがマスコミに訴えて問題を大きくしたことを強く批判した上で、「あんたが、あいつらに、子供たちの幸福を考え、ここに住まわせることにしたと告げれば、ヒーローの端くれとしてトラブルから抜け出せるんじゃないかしらね」とまくし立てる(3枚目の写真)。
  
  
  

判事から、「どう思うね〔What say you〕?」と訊かれたクロムウェルは、「他に選択肢があると?」と全面降伏。立ち上がろうとすると、ダーヴァルが、「私のテディ・ベア」と、クロムウェルが “いいおじさんのシンボル” として持っていたぬいぐるみの返却を要求する。クロムウェルは、テディ・ベアをダーヴァルの前に置くと(1枚目の写真、矢印)、「これで、何ものうなった」と言い残し、家を出て行く。判事の矛先は祖母に向かう。彼が問題にしたのは、①門の前に “暴徒” を集めて警察が入れないようにしたこと、②非公式の “法廷” で、判事を差し置いてクロムウェルにまくし立て、あたかも祖母が “法律” であるかのように振る舞ったこと、③逃亡者を匿っていること。しかし、元々判事は祖母と顔馴染みなので、結局は祖母の行為を不問にし、子供たちに 「君達は、二度と家出をしないと誓うか?」と訊き、2人が熱心に頷くと、「苦渋の決断ではあるが、フィンとダーヴァルの親権を、アイルランド、ゴールウェイ県のメアリー・オフラハティに付与する」と裁決する(2枚目の写真)。それを聞いた2人は、祖母に抱き着いて喜ぶ(3枚目の写真)。
  
  
  

最後にやり残したこととして、ホーク・ダヴの処分を決めようと、警部が隣の部屋に入って行くと、“とっぽい巡査” が下着姿でイスに縛られ、声が出ないよう さるぐつわが噛ませてある(1枚目の写真)。口がきけるようになった巡査は、「制服を盗まれました」と涙を流す。そこに、巡査部長が入って来て、「自転車が盗まれました」と報告したので、判事は ホーク・ダヴの “あっぱれさ” に笑い出し、それにつられて全員が笑う(2枚目の写真)。最後のシーンは、エンド・クレジットと共に映される幸せそうな兄妹の姿(3枚目の写真)。
  
  
  

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